ゲルリッヒ砲(漸減口径砲[taper-bore gun])
●ゲルリッヒ砲(漸減口径砲)とは
ゲルリッヒ砲とは、第二次世界大戦の初め頃に、ドイツで実用化された砲で、英語では、[taper-bore
gun]と呼称し、日本語では、漸減口径砲または、本砲の理論を考案した、ゲルリッヒ[Gerlich]博士の名を採って、ゲルリッヒ砲と呼ばれている。ゲルリッヒ砲(漸減口径砲)の機構概略図を図1に示す。特徴としては、1)砲身内径(腔径)が、砲身先端に行くほど小さくなること、2)弾丸は、重金属製(タングステンカーバイト)の弾芯の周りに軽合金製のフランジ[flange]がついたような構造、の2点が上げられる。この構造については、利点と欠点があり、それについては次項で述べる。この構造の理論は、ゲルリッヒ理論[Gerlich
principle]と呼ばれ、ゲルリッヒ[Gerlich]により1927年ごろに考案されたものである。
| 図1 ゲルリヒ砲(漸減口径砲)の機構概略図 |
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●利点と欠点
・「1)砲身内径(腔径)が、砲身先端に行くほど小さくなること」、についての利点と欠点は、以下のようなものがある。
| 利点 |
1)弾丸が腔内を進んで行く上で、腔内容積の増大が、通常の砲身と比較して小さい。腔内容積の増大が少ないということはガス圧の低下が少なく、効率の良い加速が行なえる。 2)弾丸と砲身間の抵抗が大きく、発射薬燃焼ガスの漏れが少ない。 |
| 欠点 | 1)弾丸に対する圧力の作用面積も先端に行くにつれて小さくなる。これは、弾丸の加速にとって、不利に働く。 2)弾丸の変形抵抗は、そのまま、弾丸の加速の抵抗となり、これも弾丸の加速にとって、不利に働く。 3)弾丸と砲身の抵抗が大きいため、砲腔を疵付けやすい。よって、砲身寿命は、通常の大砲よりも低くなる。 4)先端ほど内径の小さい砲身(テーパーのある砲身)の加工は難しく、砲身の製造コストは、通常の砲身と比較して、高くなる。 5)普通の榴弾が使えない。前図の徹甲弾と同じ構造の榴弾を造ったとしても、直径が小さい(弾丸質量が小さい)ことから、威力が低くなる。 |
・「2)弾丸は、タングステンカーバイトの弾芯の周りに軽合金のフランジがついたような構造」についての利点と欠点は以下のようなものである。
| 利点 | 1)前記構造の弾丸の質量は、鋼単体の弾丸より軽く、同じ腔内圧力でも、初速を大きくできる。 2)弾丸のフランジの部分は潰されるため、砲口から出た弾丸は、断面積が小さく、空気抵抗が小さいことになる。このため、弾丸の存速の低下が小さい。 |
| 欠点 | 1)タングステンは高価なため、砲弾のコストが高い(タングステン資源の少ないドイツでは、弾丸が大量生産できなかった)。 2)フランジの部分の残り方によっては、弾道性能が悪化する。 3)弾丸の構造が複雑で、コストが高い。 |
●実用化されたゲルリッヒ砲
最初に実用化されたゲルリッヒ砲は、2.8cm重対戦車銃41型[2.8cm sPzB 41:2.8cm
schwere Panzerbuechse 41]である。この砲は、砲尾の腔径が28mmで、砲口の腔径が20mmであった。本砲は、軽量な砲架に載せられ、対戦車銃として運用された。また、砲架を改造し、さらに軽量化されたものが空挺部隊で運用された。砲身寿命は400発前後で、通常の対戦車砲より一桁程度、低い値である。
次に実用化された砲は、4.2cm軽対戦車砲41型[4.2cm lePak 41:4.2cm leichte
Panzerabwehrkanone 41]で、砲尾の腔径が40.3mm(40.6mmとの資料もあり)で、砲口の腔径が29.4mmであった。砲架は、3.7cm対戦車砲35/36型[3.7cm
Pak 35/36]のものが流用され、空挺部隊で運用された。砲身寿命は、400発前後。
3番目に実用化された砲は、7.5cm対戦車砲41型[7.5cm Pak 41:7.5cm Panzerabwehrkanone
41]で、砲尾の腔径が75mm、砲口の腔径が55mmであった。
●ゲルリッヒ砲と通常砲および無反動砲との性能比較
第二次世界大戦中の対装甲用途砲の性能を表1に、ゲルリッヒ砲と通常砲の貫徹能力比較を図2および図3に示す。
[貫徹能力]
図2では、2.8cm sPZb41重対戦車銃と2cm KwK30戦車砲のAP弾、3.7cm Pak35/36対戦車砲のAPC弾、3.7cm KwK38のAPCR弾、75mm無反動砲M20のHEAT弾と比較しているが、2.8cm sPZb41重対戦車銃は、100mの距離において、2cm KwK30戦車砲のAP弾の3倍、3.7cm Pak35/36対戦車砲のAPC弾の2倍、3.7cm KwK38のAPCR弾と同等の貫徹能力をもつ。一方、75mm無反動砲M20のHEAT弾の半分程度の貫徹能力しかもたない。
図3では、7.5cm Pak41対戦車砲と7.5cm KwK42戦車砲のAPCBC弾、7.5cm KwK42戦車砲のAPCR弾、17ポンド砲(76mmL58)のAPDS弾と比較しているが、7.5cm Pak41対戦車砲の貫徹能力は、7.5cm KwK42戦車砲のAPCBC弾より高く、7.5cm KwK42戦車砲のAPCR弾と同等で、17ポンド砲(76mmL58)のAPDS弾には劣るものであった。
[延伸性]
砲弾は初速が高く、砲弾の比重が高いほど、延伸性に優れ、命中精度が高く、貫徹能力の低下も小さくなる。ゲルリッヒ砲の砲弾は、初速が高く、比重も大きいことから、延伸性もAP弾系と同等である。一方、軽く空気抵抗が大きいAPCR弾は、初速は高いものの、存速の低下が大きく、延伸性が低い。無反動砲のHEAT弾は、初速が低く、砲弾の比重も低いため延伸性が低いが、HEAT弾は、距離による貫徹能力の低下が見られないという利点がある。APDS弾は、初速も高く、砲弾の比重も大きいため、延伸性にも優れる。
[重量]
2.8cm sPZb41重対戦車銃の重量は229kgで、3.7cm Pak35/36対戦車砲(435kg)の約半分であった。7.5cm
Pak41対戦車砲の重量は1880kgで、7.5cm Pak 40対戦車砲(1500kg)より380kgほど重かった。一方、米軍の75mm無反動砲M20の重量は51.9kgであった。
| 図2 ゲルリッヒ砲と通常砲の貫徹能力比較(1) |
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| 図3 ゲルリッヒ砲と通常砲の貫徹能力比較(2) |
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| 表1 第二次世界大戦中のドイツ軍の対戦車砲(戦車砲)の性能 | |||||||||||
| 砲名称 | 口径 |
弾種 | 質量 |
初速 |
砲口 エネルギー |
各距離における貫徹能力※1 [mm] |
重量 | ||||
| [mm] | [kg] | [m/s] | [kJ] | 100 | 500 | 1000 | 1500 | 2000 | [kg] | ||
| 2cm KwK30 | 20 | AP | 148 | 780 | 45 | 20 | 14 | 9 | − | − | − |
| 2.8cm sPZb41 | 20/28 | − | 0.121 | 1430 | 124 | 60 | 40 | 19 | − | − | 229 |
| 4.2cm Pak41 | 29.4/40.6 | − | 0.336 | 1265 | 269 | − | 68※2 | − | − | − | 624 |
| 3.7cm Pak35/36 | 37 | APC | 0.685 | 745 | 190 | 34 | 29 | 22 | 19 | − | 435 |
| 3.7cm KwK38 | 37 | APCR | 0.368 | 1020 | 191 | 64 | 34 | − | − | − | − |
| 5cm Pak 38 | 50 | APC | 2.06 | 835 | 718 | 69 | 59 | 47 | 37 | − | 1062 |
| APCR | 0.925 | 1130 | 591 | 130 | 72 | 38 | − | − | |||
| 75mm無反動砲M20 | 75 | HEAT | 1.45 | 305 | 67 | 101.6 | 101.6 | 101.6※3 | − | − | 51.9 |
| 7.5cm Pak 40 | 75 | APCBC | 6.80 | 792 | 2133 | − | − | − | − | − | 1500 |
| 7.5cm KwK40(L48) | 75 | APCBC | 6.80 | 790 | 2122 | 106 | 96 | 85 | 74 | 64 | − |
| APCR | 4.10 | 990 | 2009 | 143 | 120 | 97 | 77 | − | |||
| 7.5cm Pak41 | 55/75 | − | 2.6 | 1125 | 1645 | − | 171 | 145 | 122 | 102 | 1880 |
| 7.5cm KwK42 | 75 | APCBC | 6.80 | 935 | 2972 | 138 | 124 | 111 | 99 | 89 | − |
| APCR | 4.75 | 1120 | 2979 | 194 | 174 | 149 | 127 | 106 | |||
| 17pdr | 76 | APCBC | 7.71 | 884 | 3013 | − | 140 | 130 | 112 | 111 | − |
| APDS | 4.05※4 (3.58) |
1204 | 2935 | − | 208 | 192 | 176 | 161 | |||
| ※1:貫徹能力は、直立から30度傾けた均質圧延装甲鋼板に対するデータである。なお、距離の単位は[m]である。 ※2:この数値は、700ヤード(640m)における貫徹能力である。 ※3:75mm無反動砲M20の有効射程は、800mである。 ※4:装弾筒(サボ)を含んだ砲弾重量。弾丸重量は3.58kg。 |
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●まとめ(ゲルリッヒ砲の評価)
ゲルリッヒ砲の出現当時は、通常砲と比較すると、高コストで、汎用性が低いものの、軽量で、貫徹能力が高かった。その後、通常砲で、APCR、APDS、HEATが運用されるようになると、貫徹能力の利点が低くなり、無反動砲やロケットランチャーが開発されると、軽量という利点も無くなった。これらの要因により、ゲルリッヒ砲は、開発国のドイツで少数が運用された他は、採用されることが無かった。書籍などで、ゲルリヒ砲の利点のみに着目し、高い評価を与えているものもあるが、実際のところは、上記のような評価が妥当と考えられる。
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作成:2003/01/09 Ichinohe_Takao